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神戸地方裁判所 平成10年(ワ)2432号 判決

原告

大須賀郁雄

ほか一名

被告

藤田智彦

主文

一  被告は、原告ら各自に対し、金六七四万三七三五円及びこれに対する平成七年一一月一四日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告らのその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用は、これを三分し、その二を原告らの負担とし、その余を被告の負担とする。

四  この判決は第一項に限り、仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  原告ら

1  被告は、原告ら各自に対し、各二〇七九万九四三七円及びこれに対する平成七年一一月一四日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は、被告らの負担とする。

3  仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告らの請求を棄却する。

2  訴訟費用は、原告らの負担とする。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  平成七年一一月一四日午前零時一五分ころ、兵庫県小野市樫山町五四七番地の三先の神戸電鉄芦谷踏切で、被告はその運転する普通乗用自動車(神戸七八そ八八一三。以下「被告車両」という。)を右踏切の遮断機防護柵に衝突させ、同乗の大須賀鉄平(以下「亡鉄平」という。)に脳挫傷の負傷を負わせて、死亡させた。

2  被告は被告車両の運行供用者である。

3  亡鉄平は、本件事故当時二〇歳の学生であり、死亡によって以下の損害が発生した。

(一) 慰藉料 二〇〇〇万円

(二) 逸失利益 四五七一万七六三三円

(三) 葬儀関係費用 一六三万四六一〇円

墓地関係費用 三六四万六六三〇円

仏壇関係費用 六〇万円

合計 七一五九万八八七三円

4  亡鉄平は原告らの長男であり、原告らは、亡鉄平の被告に対する右損害賠償請求権を、法定相続分二分の一ずつの割合で相続した。

5  原告らは、右損害につき、美嚢吉川町農業協同組合より責任共済契約の履行として三〇〇〇万円、被告の両親より三〇〇万円の弁済を得た。

したがって、原告らの損害額は、第3項の損害額合計より右受領額合計三三〇〇万円を控除した残額合計三八五九万八八七三円である。

6  本件損害賠償請求訴訟に対する弁護士費用は三〇〇万円が相当である。

7  よって、原告らは、被告に対し、自賠法三条に基づき、右残損害額の各自の法定相続分である二〇七九万九四三七円及びこれに対する本件事故の発生時である平成七年一一月一四日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1及び2の各事実は認める。

2  同3の損害額は争う。

3  同4の事実は認める。

4  同5の弁済の事実は認める。

5  同6は争う。

三  抗弁

1  過失相殺

本件事故は被告と亡鉄平を含む被害者らが飲酒のうえ、五人乗りの普通乗用自動車に定員オーバーの六人が乗車し、制限速度を三〇キロも超えて走行中に発生したものであり、被害者らもこうした無謀な運転による危険を共同して甘受していた過失がある。原告らの損害を算定するに当たっては、右の点を斟酌して減額させるべきである。

2  好意同乗減額

本件事故当日、被告が亡鉄平を含む被害者らを被告車両に同乗させたのは、被害者らが、自分たちの免許は点数がないとか、自分の車は軽自動車だから嫌だなどと言って、いつの間にか被告車両に乗り込んできて、先輩後輩の力関係や、友人を失いたくないという拘束的な心理状態のもとで、嫌々ながら運転を引き受けさせられたためで、原告らの損害を算定するに当たっては、好意同乗者としての減額がされるべきである。

四  抗弁に対する認否

抗弁1及び2は争う。

第三証拠

本件記録中の書証目録及び証人等目録記載のとおりであるからこれを引用する。

理由

一  請求原因1(事故の発生)、同2(責任原因)及び同4(原告らが鉄平の相続人であること)については、当事者間に争いはない。

二  請求原因3(亡鉄平及び原告らの損害)について

1  慰藉料

弁論の全趣旨によれば、原告らが長男である亡鉄平の死亡により受けた精神的苦痛は計り知れないものがあると認められ、これに対する慰藉料としては、各自一〇〇〇万円が相当である。

2  亡鉄平の逸失利益

その方式及び趣旨により公務員が職務上作成したと認められるから真正な公文書と推定すべき甲第三号証及び乙第一二号証によれば、亡鉄平は死亡当時二〇歳八か月の健康な男子大学生であったことが認められるので、本件事故により死亡しなければ、二年後の満二二歳から満六七歳までの四五年間は稼働し得たものと推認される。そして、平成八年度賃金センサスによれば、産業計・企業規模計の大学卒の二二歳男子労働者に対しきまって支給する給与額は年間三一九万六〇〇〇円であるから、これを基礎として、右稼働期間を通じて控除すべき生活費を五割とし、中間利息の控除につき新ホフマン式計算法を用いて死亡時における亡鉄平の逸失利益の現価額を算定すれば、左記のとおり、三五一〇万九三三八円となる。

3,196,000×0.5×(23.8322-1.8614)=35,109,338

なお、原告は中間利息の控除についてはいわゆるライプニッツ方式によるべきであるとするが、当裁判所は、新ホフマン方式により算定するのが相当であると考える。

3  葬儀関係費用等

亡鉄平の葬儀が原告らの手により行われたことは、弁論の全趣旨より明らかであって、弁論の全趣旨より真正に成立したと認める甲第二号証の一及び二によれば、原告らが葬儀費用として一六三万四六一〇円を支出したと認められる。

葬儀費用の支出は社会的慣習に根ざした支出であって、本件事故に起因する損害ということができ、当時、右葬儀に通常要すべき費用としては、一五〇万円を下らなかったものと認められるから、葬儀関係費用は一五〇万円が相当である。

しかし、墓地及び仏壇関係費用は、遺族の故人に対する思慕の念の表れであり、個人的な宗教的感情に出たものであって、損害賠償の対象外であるというべきである。

以上より、葬儀関係費用等の損害としては、一五〇万円が相当である。

4  合計

以上の損害の合計は、五六六〇万九三三八円となる。

三  抗弁1、2(過失相殺及び好意同乗減額)について

1  その方式及び趣旨により公務員が職務上作成したと認められるから真正な公文書と推定すべき乙第四ないし第二二号証に弁論の全趣旨を総合すると、亡鉄平が被告車両に同乗して本件事故に至った経緯につき、以下の事実が認められる。

(一)  被告は、亡鉄平とはアルバイト仲間で、本件事故の前日である平成七年一一月一三日午後一〇時半ころ、亡鉄平の大学の友人あるいはアルバイト仲間である訴外谷川晴士、訴外本吉健司、訴外安井賢太郎及び訴外牟禮猛ととともに、亡鉄平の自宅に集まり、六人で二リットル入りビン二本の生ビールを飲んだ。

(二)  日付が変わった一四日午前零時一〇分ころ、被告ら六人は、明石市硯町内にあるカラオケに行くことになった。被告らはそれぞれ自家用車に乗って来ていたが、誰の自動車に乗って行くかについては相談がまとまっていなかったところ、偶然被告が被告車両内に置いていた携帯電話を取り出そうとしたことから、亡鉄平ら五人が、お前が運転してくれるんか、などと言いながら被告車両に乗り込んできた。そして他の者らが、自分の車は小さい、とか、自分には違反経歴があって反則点数が減点されているなどと言うため、被告が運転して行くことになった。その際、訴外牟禮猛は被告車両(ホンダシティ一三〇〇cc)の座席に座ることができず、ハッチバックドアを開いて車両後部の荷台に乗り込んだ。

なお、五人のうち、鉄平を含む三人は被告より一学年年長であるが、そのことで被告が運転を強いられた訳ではなく、被告も特に運転するのを嫌がりもしなかった。

(三)  出発してすぐに三叉路を右折して二車線ある広い道路に出て、僅かに右に続いて左に、カーブする緩い下り坂となったが、被告は制限速度が五〇キロメートルであるのに、これを二〇ないし三〇キロメートルほども超過する速度を出し、変形十字路交差点の一時停止標識も無視して走行した挙げ句、ハンドル操作を誤り、道路左側の側溝に突っ込みそうになり、ハンドルを切った弾みで右方向に四〇メートル近く滑走して、道路右側の踏切遮断機防護柵に被告車両を激突させた。鉄平宅を出発して約五五〇メートルの距離であって、同乗者は、被告車両が相当速い速度で走行しているのに気付きはしても、注意する間もないほどの短時間のことであった。

2  右事実によると、被告車両の同乗者らは、単に好意同乗していたというにとどまらず、ともに飲酒後、深夜カラオケに行くために、飲酒した被告が運転することを知りながら、被告車両の定員を超えて乗車したのであり、そうした無軌道な行動の雰囲気が被告に制限速度を大幅に超過する速度で走行するという無謀な運転を惹起したというべきであるから、右の事情は同乗者の過失もしくは帰責事由として損害額の算定に当たって斟酌するのが相当であり、損害の二〇パーセントを減額するのが相当である。

そうすると、賠償を請求しうる損害額は、四五二八万七四七〇円となる。

四  損害の填補

原告らが、本件事故につき、美嚢吉川町農業協同組合より責任共済契約の履行として三〇〇〇万円の支払を受け、被告の両親より三〇〇万円の支払を受け、合計三三〇〇万円の損害の填補を受けたことは原告らの自認するところであるから、右金額を前記損害額から控除すると、残額は一二二八万七四七〇円となる。

五  弁護士費用

原告らが本件訴訟の提起遂行を原告ら訴訟代理人に委任したことは当裁判所に顕著な事実であり、弁論の全趣旨から、原告らは相当額の費用及び報酬の支払いを約していると認められるところ、本件事案の性質、訴訟の経過、認容額に鑑みると、被告に対して賠償を求めうる弁護士費用は一二〇万円が相当である。

六  まとめ

原告らは、亡鉄平の父母として、同人の死亡により、その財産を各自二分の一づつの割合で相続したと認められるから、その相続額を合わせると、原告らは、各自、六七四万三七三五円づつの賠償を請求できることになり、これに対する本件事故発生の日である平成七年一一月一四日から支払済みまで、年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度において理由があるからこれを認容し、その余の請求は失当であるからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法六四条本文、六五条本文を、仮執行宣言につき同法二五九条一項を、それぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 下司正明)

(別紙)

損害計算表

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